会社名
株式会社西尾硝子鏡工業所
所在地
東京都大田区大森北
設立
1932年(昭和7年)7月
事業内容
一般板硝子・鏡の加工卸、内装工事
内装業務は百貨店のテナント、ブランドショップ、ホテル、病院、レストランなどでの工事および加工ガラス製作
従業員
23人
URL
企業サイト:http://www.nishio-m.co.jp
特殊鏡専門サイト:http://www.mirror-pro.jp/
特注鏡専門サイト:http://www.mirror-style.jp/
硝子と鏡一筋80年以上、経験と実績が評価された大田区認定「優工場」
東京都大田区で一般板硝子・鏡の加工卸、内装工事を営む株式会社西尾硝子鏡工業所様(以下西尾硝子)。価格競争を強いられる状況下において、技術力を武器に付加価値の高い硝子・鏡を製造し続け、独自のポジションを確立してきました。
これらの実績が認められ、大田区「優工場」認定や東京商工会議所「勇気ある経営大賞優秀賞」。また、全国で100社程度しかない「企業価値認定企業」に選ばれる等、注目度は年々高まっております。
代表取締役の西尾智之様は3代目。次世代経営塾の元塾生です。塾の学びは自身の経営において非常に大きかったと振り返ります。一体何を学び、そしてどのような行動に移してきたのでしょうか?話をお伺いいたしました。
縮小傾向にある板硝子業界…会社も社員も疲弊状態
フォーバル 赤羽 聡(以下赤羽):本日はお忙しいなか、お時間をいただきましてありがとうございます。まずは御社の業界・会社の抱える課題について教えていただけますか?
西尾硝子鏡工業所 西尾 智之社長(以下西尾社長):私たちが所属する板硝子業界は、特性上大きな需要が2つあります。 それは建築と自動車関連です。これらで全体の約8割の需要を占めているのですが、今後の成長は難しいと言われており、シュリンク(萎縮)業界と言えるでしょう。
経済産業省を通じて、大手硝子メーカーにも規制が敷かれるなどの影響が出ており、今後、日本国内で一定の成長が見込めないことが業界の最も大きな課題です。
また、職人の数も減ってきています。 これは価格競争の影響が大きく、自分達の頑張りが対価に反映されにくいことが大きな要因です。これらから、業界だけでなく、会社も人も疲弊している状況だと言えますね。
赤羽:建築関連は東京五輪の特需があると聞いていますが、それ以降は特に深刻になりそうですね。
株式会社西尾硝子鏡工業所
代表取締役 西尾 智之 様
大久保秀夫の言葉で勇気を、そして新たな学びへの挑戦
赤羽:業界としては非常に苦しい状況のなかでも、御社は独自の切り口で活路を見出されていらっしゃいます。この会議室を見渡しても数多くの表彰をされており、対外的な評価も非常に高いわけで。
外から見ますと非常に順調そうに感じるのですが、西尾社長が次世代経営塾に入塾を決められた理由は何だったのでしょうか?
株式会社フォーバル コンサルティングディビジョン
チーフコンサルタント 赤羽 聡
西尾社長:一番大きかったのが、数年前の東京商工会議所主催の「勇気ある経営大賞」ですね。
弊社は優秀賞を受賞させていただいたのですが、その時の最終プレゼンテーションの審査員の1人が大久保塾長でした。
プレゼンテーション後に質疑応答の時間があったのですが、特に大久保塾長から言われた言葉が凄く勇気づけられたのです。
もっと話を聞いてみたいなと思っていたら、御社のアイコン担当の方から大久保秀夫講演会があると聞き、参加を決めまして、さらにそこで次世代経営塾があると知り、勉強をしたいと思ったのが入塾の理由です。
赤羽:勇気ある経営大賞での大久保とのやりとりが西尾社長の中でも大きなポイントだったのですね。
「在り方」を重んじ、「在り方」に基づいて動き続けるということ
赤羽:次世代経営塾は全5回5カ月間という期間の中で行われました。改めて振返り、西尾社長が最も感銘を受けたことは何でしたでしょうか?
西尾社長:「在り方」ですね。元々私の中でも実践していたつもりではあったのですが、次世代経営塾を通じてより一層実践していくべきだと感じました。
あとは、社員間のコミュニケーションにおいて、ひとつのヒントを得ることができたのも大きかったと思います。実際に行動に移したところ、目に見える効果がありました。その根幹にあるのも在り方です。
会議の時でも、さまざまな意見が交錯した時はここに立ち返るようにしています。そうでないと収集がつかなくなってしまいますから。在り方の必要性を次世代経営塾で学べたことは最も大きかったと思います。
解消し切れない課題解決の方向性が在り方によって
より明確になったと西尾社長は振り返る
社長自身が変わらなければ、動かなければ社員に本気が伝わらない
赤羽:次世代経営塾で学ばれたことを西尾社長はそのまま実行に移されたとのことですが、どのような取組みをされたのでしょうか?
西尾社長:大久保塾長からヒントをいただいた幹部同士での社外会合は即実行に移しましたし、全社での取組みの代表例として挙げられるのが「社内環境整備」ですね。
毎朝朝礼後の清掃を通じた社内美化、そして部署の壁を超えた社員間のコミュニケーション向上の一環として取り組もうとしたのです。
ただ、開始当初は社員の理解がなかなか得られなくて…。嫌々やっている社員もいれば、「掃除やって売上が上がるのですか?」「これって意味ないですよね?」等言ってくる社員もいました。簡単ではありませんでしたよ(苦笑)
。赤羽:それは大変でしたね…。しかしそのような状況から、どのようにして社員の理解を得られたのですか?
西尾社長:まずはトップである自分自身が本気であることを行動で示そうと、言いっ放しではなく率先して行動し続けようと思いました。
当初は個々で掃除エリアを割り振っていたのですが、誰のエリアでもない箇所がありまして、そこは雑草で生い茂っていたのです。特に誰からも言われたわけでもないのですが、全て自分1人で抜きました。当時は真夏でしたので汗だくになりながら。
後で知ったのですが、その姿を社員の1人が見ていたらしく、別の社員が清掃の必要性についていろいろ言っていた時に、話してくれたらしくて。「社長は本気だし、社長に雑草抜かせる会社でいいのか?」と。1人でも理解してくれる社員が増えれば、徐々に派生していくと信じ続けた結果、今ではだいぶ習慣化しましたね。
赤羽:まさに、リーダーである西尾社長自らが模範となって示した結果ですね。素晴らしいと思います。
隅々まで行き届いた清掃の積み重ねで
工場内は非常にキレイに整備されている
継続は力なり、環境美化がコミュニケーション活性と生産性向上にもつながる
赤羽:社内環境整備の習慣化にいたるまで意識されていたこと、また目に見える変化はありましたか?
西尾社長:先程お伝えしたとおり、最初は自分の身の回りの10分間清掃を実施するところから始めていったのですが、特に大切にしたのが「小さな約束を守り続ける」ことでしたね。
良くないのが、最初だけ気合い入れて頑張っても徐々にやらなくなっていき、気付いたら自然消滅してしまっている…状態。このようなことが積もり積もっていくと会社の文化になってしまう恐れがあります。
そうすると「何をしてもどうせ続かないだろう」と言う諦めの空気が常に漂ってしまい、お互いの信頼関係=コミュニケーションにもつながってしまう。何かあった時でも、必ず代替案を出すことも大切にしましたね。
赤羽:確かに人間は飽きやすい動物とも言われてますからね。大切だと思います。
西尾社長:この取組みを続けてきたことで、様々な場面で効果を発揮しました。
部署関係なく社員同士で話し合っている姿を見るようになりましたし取引先から「西尾さんの工場はとても整理整頓がされていてキレイだね」という言葉もいただけました。5Sの徹底により仕事への集中度が高くなり、結果加工ロスが大幅減少。事故も38カ月ゼロとなっており今現在も更新中です。
さらに数年で売上高粗利率は59%から62%に向上しました。弊社は年商約3億6千万円の会社ですので、3%の利益の変化はとても大切。何よりも社員の自発的な動きの積み重ねの結果であることが大きいですね。
赤羽:まさに継続は力なり。そして社員1人1人の努力の賜物ですね。
社員1人1人の5Sへのこだわりが
生産性向上につながっている
若手社員の採用・育成でも最も大切にするのはコミュニケーション
赤羽:現在中小企業において、採用活動が難しいと言われてますが御社の社内を見ますと非常に若い社員が働かれている印象です。採用で工夫されていらっしゃることはございますか?
西尾社長:工夫と言いますか、自分が採用の全てに関わるようにします。
弊社に人事部はありませんが、総務や工場長に任せるといったことはしません。 弊社の若手で硝子のことが好きと言う理由で入ってきた人はゼロです。ものづくりが好きで、常に商品と向き合っていたいからなのですね。
就職活動を通じて、多くの学生が弊社のWebサイトを見てくれます。そこで得た情報プラス、私が直接話す内容を通じて、働くイメージができるかどうかが大事かなと思います。 ミスマッチも防げて定着率にも影響するわけですから、若手の採用においてだけではなく離職率が減少したと言えますね。
あとは年に4回、社員同士の振返りを行います。工場・営業…会社のメンバー間で話し合う事でコミュニケーションを高め、若手でも話しやすい環境が醸成されていることは意識していますし大きな要因なのかなと思います。
赤羽:採用から若手が働きやすい環境づくりのための仕掛けが、自然とされていらっしゃいますよね。素晴らしいと思います。
目指すビジョンに向けて
若手とベテランが話し合うことは日常茶飯事
硝子と言えば西尾硝子と思われるような会社でありたい
西尾社長:皆様に硝子に関する諸々を何となくでも分かってもらい、見方を変えてもらうことが非常に大事だと思います。
例えば何気なく硝子や鏡を見ている時に、ふと私達の発信した情報のことを思い出してくれることで、イメージが変わるのではないかなと。
小・中学校の修学旅行で弊社の工場見学・体験に来ていただいた時も、そこで少し子供たちに関わってもらい、世界に1つだけの鏡として記念にお渡しするのですが、後日その親から御礼の手紙が届いた時は嬉しかったですよね。
あとは10年前に工場見学に来た学生から、硝子の件で分からないことがあると突然電話があったのです。「硝子のことなら西尾硝子さんに聞けば間違いないと思った」と言われた時も嬉しかったですよね。地道にこのような活動を続けていければと思います。
赤羽:本当に嬉しいですし素晴らしい取組みですね。ぜひ今後も続けていただければと思います。
硝子のことを1人でも多くの方に知ってほしい
この想いが結果、多くの人からのありがとうの声につながっている
品質だけではない、そこに至る過程も含めた西尾ブランドを目指して
赤羽:御社は企業価値協会から企業価値認定として選ばれておりますが、こちらの取得をされた経緯についても教えていただけますか?
西尾社長:一言で「ブランド」です。西尾硝子鏡工業所としてのブランドを高めたいと思ったからです。
私の考えるブランドは、難しい技術が施されている製品・良い製品だけではありません。日々の電話応対等ちょっとしたプロセスで差別化を図っていくことが西尾ブランド、これらの積み重ねを大切にしていこうと考えております。
赤羽:商品・サービスではなかなか差別化が図りにくいですものね。社員1人1人の言動や行動がブランドに繋がっていくということですか?
西尾社長:はい。製品だけで全てを判断される方ももちろんいらっしゃいますが、一方で、製品に至るまでの過程で電話やメールでのお問い合わせや、その他人と人との関わりが多数発生するわけで。そこに重きを置かれる方もいらっしゃいます。
価格だけで見たら他社より高くても、それ以外の価値を認めてもらって、「西尾さんにお願いしたい」と言われた時は本当に嬉しいですし、そこを目指したいですね。
赤羽:こちらは既に3年以上取り組まれていらっしゃいますが、既にそのような西尾社長の想いに共感してくれている方が増えてきているのでしょうか?
西尾社長:はい、少しずつですが実感しています。
私達が大切にしているのが「お客様視点」です。なぜ、お客様は弊社に依頼して下さったのか?その答えを確かめるべくアンケートの実施、またはお客様に直接ヒアリングを行いました。そうすると、想定と違った回答をされることも少なくありません。
例えば、「西尾さんは連絡が取りやすい」ことが依頼の決め手の1つだと言われた時には正直驚いたのですが、一方でこれからもしっかりし続けていけないと気付かされるわけです。
また、いただいたアンケートを踏まえて改善した点についても必ずお客様へ報告しました。 お忙しい中、協力いただいたアンケートをもらいっ放しでは良くないですから。
赤羽:本当にお客様を大切にされていらっしゃることがとても良く分かります。そして、まさにお客様から「ありがとう」をいただくための活動をされていらっしゃいますね。
全てはお客様からのありがとうのため
そのための企業価値なのだと
その言葉と行動に一切のブレはない
大田区の町工場発、硝子・鏡のメーカーに私達はなる
赤羽:御社が目指す最終ゴールは何になるのでしょうか?
西尾社長:これまで積み上げてきた技術を活かして自社製品を抱えるメーカーになることが私達のゴールです。 ものづくりに携わる一企業として、一方的ではなくお客様と共に創っていければと思います。
赤羽:「お客様と共に創るものづくり」まさに現代における最短距離を走られていらっしゃいますね。
西尾社長:ただ、それでも迷いそうになる時もありますよ。その場合もやはり原点に返ると言うか、在り方に立ち返ります。そうすることで、お客様視点=自分自身でお客様の声を聞きに行くべきだと気付くわけです。
在り方がゴールを目指すうえでの
重要な羅針盤になっている
全国の経営者が共に成長できる場を提供して欲しい
赤羽:最後に今後私達フォーバルに期待する事はございますでしょうか?
西尾社長:今もさまざまな領域でご支援していただいておりますが、今後はフォーバルだからできる企業と企業の出会いの場を提供してもらいたいですね。
企業視察、交流会等を通じた出会いはとても大切だと思いますし、そこから得られること、学べることは非常に大きいですから。私は3代目ですが、同じ経営者でも培ってきたものが違いますからね。そこから得た話は勉強になります。
赤羽:承知いたしました。他のOBからも意見として多くいただいておりますので、実現できるよう努めて参ります。本日はどうもありがとうございました。
エントランス前にて
編集後記
取材を通じて、西尾社長が大切にされていることが数多く挙げられましたが、ひとつひとつを言いっ放しでなくやり抜かれていることが本当に凄いと感じました。
そして徹底したお客様視点が生み出した行動の数々には驚きです。ブランドについても、ものではなく人にフォーカスされていらっしゃる点は非常に共感しましたね。
人にフォーカスしたブランディングは簡単なことではないのですが、西尾社長ならやり抜けてしまいそうな気がします。
メーカーを目指して、西尾ブランドにさらなる磨きをかけていき、今後の西尾硝子のさらなる進化を共に歩み、創っていくためのお手伝いができればと思います。
(2017年8月取材時)