働き方改革の目的と具体的取組み

これまで述べてきた内容を踏まえて、ここでは働き方改革関連法の施行によって具体的に進められる取組みについて整理していきたい。

8つの法律の改正、またさまざまな取組みを通した改革であることから内容は多岐にわたり、かつ大企業と中小企業では施行時期が異なるなど、すぐに理解するのは難しいかもしれない。まずは取組みの概要について整理を試みる。

内閣府が働き方改革関連法について、中小企業の経営者の理解を深める目的で開設したウェブサイト(※12)の内容に基づき、今回の関連法で示された内容を整理すると以下の表のようになる。

働き方改革関連法で示されたポイント

※12:「中小企業も!働き方改革」(内閣府大臣官房政府広報室)
https://www.gov-online.go.jp/cam/hatarakikata/about/

このサイトでは、各施策の内容から、「労働時間・柔軟な働き方」と「公正な待遇の確保」、大きくこの2つに分類されている。またその取り組みをここでは9つに分類し、それぞれの内容について上記の表のように整理をした。

企業の規模に関係なく対応すべきこと

働き方改革関連法の施行に伴い、複数の取り組み内容が示されているが、すべての企業が取り組まなければならないことがある一方で、該当する企業のみが対応すべきこともある。

ここではまず「すべての企業が取り組まなければならないこと」から整理を試みる。

時間外労働の上限規制(※13)

・大企業は2019年4月~、中小企業は2020年4月~
・時間外労働に関する労使間協定(特別条項付36協定)の上限を設定する内容

長時間労働は、健康、ワークライフバランスに影響を与えることから問題視されている。そのため、時間外労働に上限規制を設けることにより長時間労働を防ぎ、これらの課題を解決する目的で労働基準法の改正が行われた。

時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることができなくなる(月45 時間を超えることができるのは年6 ヵ月まで)。

また、臨時的な特別の事情があるとして、労使間で合意の上に時間外労働をする場合は、年間で720時間以内(月平均では60時間)、時間外労働と休日労働を合わせた数字で月100時間未満、2~6か月平均で80時間以内とする必要がある。これに違反した場合は、事業主(事業の経営責任者)は、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられるおそれがある(改正労働基準法第10条および第119条)。

この法定労働時間を超えて労働者に時間外労働をさせる場合や、法定休日に労働させる場合には、36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)を締結し、その上で所轄労働基準監督署長へ届け出をしなければならない。

※13:「パートタイム・有期雇用労働法が施行されます 正社員と非正規社員の間の不合理な待遇差が禁止されます!」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000471837.pdf

年次有給休暇の確実な取得

・大企業、中小企業に関わりなく、2019年4月から実施
・有給休暇日数が年に10 日以上の労働者が対象(正社員(有給休暇権利取得者)は全員対象で、有給休暇の5日以上の取得を義務づける。パート・アルバイトでも有給休暇日数が年に10日以上の人は対象となる

厚生労働省が2007年(平成19年)に策定した「仕事と生活の調査推進のための行動指針(※14)」によると、2020年には有給休暇取得率を70%にするとの数値目標が示されていた。その当時で47.4%であった。

同じく厚生労働省が公表した「平成29 年就労条件総合調査の概況(※15)」によると、労働者一人平均の年次有給休暇の取得率は49.4%であり、この10年で2ポイントしか上昇していない。有給休暇の取得については、現状ではすべてを消化するのが難しい現状が伺える。

また企業規模別の取得率を見ると、規模が小さくなるほど取得率は低くなっていることがわかる。

労働者1人平均年次有給休暇の取得状況

※14:「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/sigoto-seikatu/pdf/indicator.pdf

※15:「平成29年就労条件総合調査の概況」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/17/dl/gaikyou.pdf

労働時間の客観的把握

・大企業、中小企業に関わりなく、2019年4月から実施
・事業者は、雇用するすべての労働者について、客観的な記録に基づく労働時間の把握が義務付けられる

これまでは厚生労働省のガイドライン(※16)において、始業時間、就業時間を記録すること、その手法は「タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録」するよう書かれていた。自己申告ではあいまいな労働時間管理になるリスクがあるため、客観的判断が可能な手法を用いることが推奨されていた。

そして、この記録はこれまですべての社員ではなく、管理監督者は自ら労働時間に裁量権を持っていると考えられていたため、規制の適用を受けていなかった。しかしながら、管理監督者であるから長時間労働が認められてよいことにはならず、今回の改正では管理監督者も含めて労働時間の把握をするよう義務付けられた。また、一般労働者の長時間労働が規制されることにより管理監督者の負担が増えてしまうことへの配慮もある。

そのため、企業は、これまで以上に労働時間の管理、かつそれを客観的に残すことを徹底して行わなければならなくなる。

※16:「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf

同一労働同一賃金の施行(※17)

・大企業は2020年4月~、中小企業は2021年4月~
・雇用形態の違いのみで基本給や賞与等、あらゆる待遇に差を設けることを禁止する内容

同一労働同一賃金の導入は、同一企業・団体等において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである。

これを解消することは、どのような雇用形態であったとしても賃金に差がつけられないことから非正規雇用労働者の不満を解消することができ、多様な働き方を選択しやすくすることにつながると期待されているものである。

具体的には以下のようなものである。

1:不合理な待遇差をなくすための既定の準備
同一企業内における、正社員および非正規社員間の、基本給や賞与等あらゆる待遇について、不合理な待遇差を設けることを禁止する

2:労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
非正規社員は、正社員との待遇差の内容や理由などについて、事業主に説明を求めることができるようになる。事業主は、非正規社員から求めがあった場合は、説明をしなければならない

3:裁判外紛争解決手続『行政ADR』の既定の整備等

※17:「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf

また、厚生労働省が公表している資料「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~(※18)」では、不合理な待遇がどのようなものかが示されている。

その中では、「基本給」に関するものとして、正規雇用労働者と非正規労働者の間に賃金の決定基準・ルールに違いがあるときには、「『将来の役割期待が異なるため』という主観的・抽象的説明では足りず、賃金の決定基準・ルールの違いについて、職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはならない」とされている。

その他、通勤手当も正規労働者、非正規雇用労働者で同一の支給をしなければならないほか、家族手当・住宅手当など、原則となる考え方が示されていない待遇や具体例に該当するものについては、「均衡・均等待遇の対象となっており、各社の労使で個別具体の事情に応じて議論していくことが望まれる」としている。

※18:「働き方改革~一億総活躍社会の実現に向けて~」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000335765.pdf

●参考:派遣労働者については、中小企業も2020年4月から(※19)

改正労働者派遣法により、派遣元企業は、派遣労働者に対して「不合理な待遇格差をなくすため(同一労働同一賃金)の規定の整備」が義務付けられることとなり、同法は、2020 年4月1日から施行される。

「有期雇用労働者」および「パートタイム労働者」(「有期雇用労働者」および「パートタイム労働者」は、「パートタイム・有期雇用労働法」が適用される)とは異なり、大企業・中小企業問わず、一律して2020年4月から対応が求められるため、注意が必要である。

※19:「派遣元の皆さまへ」(厚生労働省リーフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/000497032.pdf

自社が関連する場合に対応すべきもの

次いで、ここでは自社が関わる場合において、導入を検討する取り組みについて記す。

高度プロフェッショナル制度(通称:高プロ)の創設

・大企業、中小企業ともに2019年4月~
・厚生労働省令で指定された、専門知識を要する業務に従事し、一定水準以上の賃金が確保される労働者には、労使の合意により、時間外労働の上限規制や割増賃金の支払い義務等の適用除外になる

厚生労働省などが作成した資料(※20)によると、高度プロフェッショナル制度とは「高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象として、労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提として、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずることにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定を適用しない制度」とある。

業務の内容を明確化し、かつ労使間の決議を所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要になるなど決めなければならないことは多いが、対象労働者は始業・就業時間が指定されずに時間帯や配分についても自身で決められることから、労働者側に多くの裁量権が認められる内容になっている。一方、労働基準法に定められた労働時間や休日等に関する規定は適用されないことになる。

ちなみに年収は1,075万円以上であることが要件となっている。その根拠は、「基準兼官平均給与額の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること」とされている。

労働者側は裁量権が認められて自由な働き方ができ、雇用する企業側は双方で合意した仕事内容の範囲ならば残業時間等を気にしなくてもよくなる。お互いにとって良い仕組みであると考えられる一方で、結果的に労働時間が長くなり健康に影響が出てしまっては、働き方改革関連法を進めてきた意味がなくなってしまう。

そのため、高度プロフェッショナル制度を導入しても、対象労働者の健康確保措置は企業に引き続き求められることになる。

具体的には、健康管理時間の把握(労働時間を客観的に把握する)、休日の確保(年間104日以上、かつ4週間を通じ4日以上の休日)などに加え、「選択的措置」「健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置」などへの対応を取らなければならず、企業としても全く手放しにできるということではない。

「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)
https://www.mhlw.go.jp/content/000497408.pdf

フレックスタイム制の清算期間延長

・大企業、中小企業ともに2019年4月~
・フレックスタイム制の清算期間が2か月から3か月に拡充

フレックスタイム制とは、厚生労働省等の資料(※21)によると「一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・就業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度」とされている。

今後、多様な人材の活用、多様な働き方の導入が進められようとしている。子育て中で朝早い勤務が難しい場合や、頻繁に通院しなければならない人など、個々の生活スタイルに応じて勤務時間をフレキシブルに対応するものである。フレックスタイム制はこれまでも多くの企業で取り入れられてきたが、今回改正されたのはその清算期間の延長が盛り込まれたことである。

「清算期間」とは、実際に労働する時間を定める上での単位となる期間のことで、これまでは1か月以内とされていたが、それが3か月となり幅が広くなる。より柔軟な働き方が可能になるとみられている。

「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」(厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署)
https://www.mhlw.go.jp/content/000476042.pdf

勤務間インターバル制度の導入促進

・大企業、中小企業に関係なく2019年4月~
・退勤後から翌日の出社時までに9時間、11時間程度の時間的間隔を設ける
・努力義務

働き方改革関連法ではさまざまな観点で労働の在り方が再検討されている。この「勤務間インターバル制度」は、勤務終了後から翌開始時間までの間の「休息時間」を一定程度空けることで、きちんと休息を確保するために作られた制度である。

これについては企業の努力義務であるが、きちんと休息を確保するこの取組みはワークライフバランスを確保できる取組みやすい策であるとして注目されている。

勤務間インターバル制度の導入促進

・従業員数50名以上の事業場では産業医の選任義務
・50名未満の事業場でも、健康を損なうような場合はすぐ相談できる環境の整備が必要
・2019年4月~
・企業と産業医がより密接に情報共有を行い、労働者がいつでも健康相談を受けられる環境を整備する

これは事業場の規模により対応が異なるもので、常時50人以上の社員がいる場合、産業医を選任する義務が発生するというものである。50人未満の場合は選任が努力義務となるが、健康管理を担うことに努めるよう求められている。

長時間労働による健康被害に加え、メンタルヘルスへの留意、治療と仕事の両立への支援等をしなければならないことも、この制度が求められる背景にあるだろう。

医学的な見地から社員の状態をチェックし、企業も情報提供をすることで社員の不調を早期に発見することが可能になるメリットがある。また、これまでも事業者に対して勧告することができたが、改正後は事業者から産業医に対して労働者の健康に関わる情報を提供しなければならなくなった。また産業医が診断するための体制の整備も、事業者側がすべきこととされた。

残業の割増賃金率の引上げ

・中小企業は2023年4月~
・月60時間を超える時間外労働(残業)について、50%の割増賃金率を適用することになる(大企業についてはすでに導入されており、中小企業向けの猶予措置が廃止される)(※22)

月に60 時間を超える残業の割増賃金率については、法改正前は大企業が50%、中小企業は25%とされていたものが、改正後は大企業、中小企業ともに50%となる。

すでに大企業には50%の割増賃金率は導入されていたが、中小企業には、経営体力の問題や、業務の効率化に向けた投資を迅速に行うことが困難、などの理由から猶予措置が取られていた。これが今回の法改正により廃止され、中小企業にも50%の割増賃金率が適用されることになった。

ただし、時間外労働(残業)のうち、60時間を超えないものについては、大企業も中小企業も、いずれも25%のまま据え置きとなっている。

※22:「働き方改革〜一億総活躍社会の実現に向けて〜」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000335765.pdf

ブルーレポートの発行者

株式会社フォーバル ブルーレポート制作チーム

フォーバルは1980年に創業以来、一貫して中小企業と向かい合い、現在20,000社以上にサービスを提供している。フォーバル創業者の大久保秀夫は東京商工会議所副会頭、中小企業委員会委員長としても活動。今後フォーバルが誰よりも中小企業のことを知っている存在を目指し、良いことも悪いことも含め、現場で中小企業の生の声を集め、実態を把握。そのうえで関係各所へ提言することを目的に、プロジェクトを発足。

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