働き方改革の必要性について社会的な関心が高まった背景には、2015年12月に大手広告代理店の新入社員が過労により自殺した件があることはすでに述べた。労働基準法に違反した罪に問われた会社側に対し、東京簡易裁判所は2017年10月6日に求刑通りの罰金50万円の判決を出している。
この一件で注目されたのは長時間労働のみならず、業務として認められなかった深夜残業や休日出勤の存在、また出社への恐怖感を持つまでに至った人間関係など自殺に至る要因ともとらえられる勤務実態である。
長時間労働が当たり前となっているのであれば問題提起を行い、それを起因とする過労死やメンタルヘルスの不調を防ぐ必要がある。この件を通して、労働環境を改善することへの世論の関心が高まり、さらに社会へのインパクトが大きかったことから政治も早い動きを見せたことが、今回の改正法成立への後押しにつながったとみられる。
さらに、重要なポイントは少子高齢化による労働人口の減少への対応がある。
好調な景気を背景に売り手市場が続いているが、中小企業になかなか人が集まらない現状は、少子高齢化が続く今後も、当面は大きく変わらないものと予想される。
人手が足りなくなれば、残る社員にしわ寄せが及ぶことになる。それが改善されなければ労働環境の悪化を理由に転職してしまう人が出るかもしれない。
働く人手が足りないのならば、まずは現在働く社員が働きたいと思う職場環境を作ることが大切である。また新たな人材を雇用したいのならば、応募者が「働きたい」と思うような環境にしなければならないだろう。仕事があっても社員が足りずに仕事ができない状況は生みたくないが、そうしたケースがみられるようになっていることも事実である。
ここでは、その近年注目されている「人手不足倒産」について触れてみたい。
帝国データバンク社が2019年4月に発表した「『人手不足倒産』の動向調査(2013~18年度)(※10)」によると、「2018年度の“人手不足倒産”は169件発生し、前年度比48.2%の増加」となった。調査開始後6年にわたって前年比増が続き、特に2017 年度、2018 年度の増加率が大きくなっている。
「特別企画:『人手不足倒産』の動向調査(2013 ~18)」(株式会社帝国データバンク)
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p190404.pdf
ここでいう「人手不足倒産」とは、同社によると「従業員の離職や採用難等により収益が悪化したことなどを要因とする倒産」と定義づけしている。
また、過去6年累計で業種(細分類)別を見てみると、以下のような業種において人手不足倒産がみられたとの結果が出ている。
トップは「道路貨物輸送」の49件。ネットショッピングの利用者が増え、配送業へのニーズは高まっていると思われるが、それでもドライバー確保が間に合わずに倒産に至ったケースがみられるという。
2番目に多かった「老人福祉事業」の32件についても、社員の確保ができなくなったことが倒産の理由として挙がっている。その他、建設関連では人手が足りないことに起因する受注減、また工期延長による労務費の上昇などが同調査内の分析において、原因として示されている。
従業員の離職が続き、それにより事業遂行が難しくなるのは中小企業、特に少人数で切り盛りする小規模事業者にとっては切実な課題であろう。
また、働き方改革の議論が盛り上がった背景に、非正規労働者の増加に対する施策を求める声が増えたことも要因として考えらえる。
次のグラフは、非正規雇用労働者数の推移を示したものである(※11)。
これによると、1994年(平成6年)から非正規雇用労働者は緩やかに増加していることがわかる。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者の合計に対し、非正規雇用労働者が占める割合は、2017年(平成29年)には37.3% となっている。パート・アルバイトで7割近くを占めており、その他を派遣社員、契約社員、嘱託などで構成している。
※11:「『非正規雇用』の現状と課題」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11650000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000120286.pdf
非正規雇用労働者には、出産や子育てによりフルタイムで働くことが難しくなった女性や、定年退職後に同じ会社で継続して働く、あるいは新しい仕事で働く高齢者などが含まれている。しかし実際は正社員雇用労働者との待遇面での格差があると問題視されることが多かった。
こうした人材は人手不足が叫ばれる今、注目人材として積極的に活用していくことが国からも期待されている。働きやすい環境を整備することで、これらの人材がさらに活躍の場を広げられるようにするというのが、今回の働き方改革を進める意図に含まれているだろう。
ブルーレポートの発行者
株式会社フォーバル ブルーレポート制作チーム
フォーバルは1980年に創業以来、一貫して中小企業と向かい合い、現在20,000社以上にサービスを提供している。フォーバル創業者の大久保秀夫は東京商工会議所副会頭、中小企業委員会委員長としても活動。今後フォーバルが誰よりも中小企業のことを知っている存在を目指し、良いことも悪いことも含め、現場で中小企業の生の声を集め、実態を把握。そのうえで関係各所へ提言することを目的に、プロジェクトを発足。