コラム:人生100 年時代の働き方

人手不足状況への政府の見解や対策の現状

2016 年10 月は「人生100 年時代」への社会的関心が高まる2つの注目される動きがありました。

ひとつは英国、ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏の著書『LIFESHIFT ~100年時代の人生戦略』が刊行されてメディアでも盛んに取り上げられたこと、もうひとつは自民党の若手議員20人による「人生100年時代の社会保障へ」(自民党・2020 年以降の経済財政構想小委員会)の提言が同月にまとめられたことです。

両者ともその内容は、今後寿命がさらに延びて人生100年が当たり前の時代を迎えれば、これまで日本の多くの労働者にとってスタンダードであった終身雇用や定年などをベースとする人生のレールが軌道修正を迫られる、というものでした。具体的には、「20年の学びの期間、40年の労働の期間、20年の老後の期間」という流れに沿った社会保障や高齢者向け支援はそもそも成り立たなくなるのではないかとの見解です。

少子高齢化が進めば若い世代の負担が増えるという指摘はこれまでも多くみられました。少ない生産人口で多くの高齢世代を支えていかなければならず、しかし財源に余裕が出ることは考えにくいため、高齢世代は少ない年金で細々と生活しなければならなくなります。またこれまでの2世代、3世代同居が当たり前の時代とは変わり、核家族化が進み、高齢者のみの、あるいは高齢者単身の世帯が急増しています。今後はますます社会保障費が増え、よって現役世代の負担も増えるという悪循環が続くことになると予想されます。

その現役世代の暮らしはどうなのでしょうか。

かつて、高度経済成長期にいわれた一億総中流社会では、結婚をすることが当たり前の社会において、夫が働き、妻は家を守り、子育てをすることが平均的な家族の姿といわれていました。しかし今は生涯未婚率が上昇し、特に男性は5 人に1 人が生涯未婚の時代となっています(図1−1)(※1)。

また結婚しても共働きが当たり前になっています。次のグラフ(図1−2)は専業主婦世帯と共働き世帯の推移を示したものですが、1980年代と近年を比べてみるとその変化は明らかで、形勢は逆転しています(※2)。今や共働き世帯は当たり前の時代ともいえるようです。

このように、家族の形も、働き方も変化しています。しかしその変化に対し、働く環境や社会保障の制度が追い付いていないというのが冒頭の2つの動き(書籍と自民党委員会)で示されていた問題提起でした。

例えば出産後に職場復帰をしようとしても、子どもの預け先が見つからず仕事を再開することができない待機児童問題は、都市部、特に首都圏で大きな問題となっています。働きながら子育てすることが難しいと判断されれば、出生率の上昇は難しくなるでしょう。子どもを育てやすい環境を整えることにより、働く意思のある女性の雇用機会が増えることにつながると考えられています。

待機児童問題のほかにも、幼児教育の無償化、高等教育も無償化など、子どもたちの教育環境の整備を進めることが子育てしやすい環境を整えることにつながり、それが働く女性を後押しすることにもつながります。

共働き世帯が増える中、高齢者の介護問題に直面した現役世代が、その介護のために離職せざるを得ない状況に追い込まれることもあります。特に注目される認知症対策は、国が積極的に支援制度を構築すべく検討が進められていますが、現実的には子どもが面倒みざるを得ないのが現実です。「介護離職ゼロ」も現役世代の働く場を確保する上で、重要な視点です。

同じく、高齢者が働きやすい環境を整えることも重要です。昨今は65歳定年制を採用する企業も増えてきましたが、現状では60歳定年制が主流であり、その後65歳まで嘱託で仕事を続けている高齢者が多いのではないでしょうか。

これをさらに68歳に引き上げる議論がありますが、現実的には企業の人件費負担が増えることから懸念する声があるのも事実です。国としては人材不足対応、また優秀な人材の継続雇用を通した企業の活力維持と経済成長を睨んでいるためだと考えられますが、背景には膨れ上がる社会保障費の負担軽減という思いもあるのではないでしょうか。

人生100年時代となれば、これまでの社会制度や働き方に変化が生まれ、個々人の人生設計にも大きな影響をもたらすことになるでしょう。中小企業経営者も、自身や社員の働き方について考えてみる良いタイミングなのかもしれません。

ブルーレポートの発行者

株式会社フォーバル ブルーレポート制作チーム

フォーバルは1980年に創業以来、一貫して中小企業と向かい合い、現在20,000社以上にサービスを提供している。フォーバル創業者の大久保秀夫は東京商工会議所副会頭、中小企業委員会委員長としても活動。今後フォーバルが誰よりも中小企業のことを知っている存在を目指し、良いことも悪いことも含め、現場で中小企業の生の声を集め、実態を把握。そのうえで関係各所へ提言することを目的に、プロジェクトを発足。