「情報爆発」に向けた中小企業の経営課題とは

超スマート社会と呼ばれる次世代の日本は、すぐ目の前まできている。多くの中小企業の経営者が、この社会変化を身をもって感じることになるだろう。そして2019年度は企業がこの変化に対して、具体的な行動に移らなければならない時期であるともいえる。

「現状を維持し続けること」、「変化しないこと」自体が、今後の社会から取り残されてしまうほどのリスクをはらんでいる。

ではこの変化をチャンスにするために、私たちはどうすればよいのだろうか。

いまや「情報爆発」の時代ともいわれる。

パソコンやスマートフォンが生活に欠かせないデバイスとなり、IoTにより様々な情報が吸い上げられ、蓄積する、それらも含めてやり取りされるデータの流通量が指数関数的に増加していく状況を指している。私たちの生活、そして社会全体が、こうした情報革新によって大きく変化しようとしている。

そしてそれは、中小企業の経営現場でもいえる。

ここまで人手不足対応、業務効率化(業務・作業の見える化による必要業務の仕分け)、財務管理、労働時間把握などの対策の必要性を述べてきた。

さらに生産性向上に向けては、「ヒト・モノ・カネ・情報・時間」の5つの観点でメスを入れていかなければならない厳しい状況にある。なかでも、重要な要素としてあるのが「情報」への対応である。

製造業でいえば「スマートファクトリー(※4)」ともいわれるような、工場自体をIoT 化し、機械1台1台にセンサーを取り付け、稼働状況の情報収集と分析を、生産量のマックスポテンシャル算出や、適切な人員配置、省エネルギー化による経費削減に役立てている。生産ラインをカメラで監視し、AI による映像分析によって差異を発見することで業務効率化を達成しているところもある。

他国と比べて、日本の製造業は生産ラインの効率化が進んでいるといわれてはきたものの、今後はさらなる躍進、生産性向上を目指していかなければならない。また内需が縮小することが予想される中、海外市場も見据えて、これまでの実績のみならず、新しい情報や技術を獲得しつつ、新たな価値創造に向けて挑戦し続けなければならないだろう。

ただ日本企業は、今までの慣例で、自社で持つ情報を抱え込み活用し切れていない可能性がある。

ここで必要とされるのは、自社の情報の一部を他社と共有することで、新たなソリューションを見出し、イノベーションを起こすことである。自由競争による経済発展の領域は確保しつつ、共有できる情報(「競争領域」に対して「協調領域」と呼ばれる)に関しては共有し、国力を上げていくことが期待される。

ほかにも、例えば金融分野であれば、与信調査でAI を活用することが期待されている。またスマホ決済でビジネス展開する企業は、収集される個人情報を元にしたパーソナル化5 での新たなビジネス展開を考えているかもしれない。「スマートアグリ6」では、自然環境や消費者ニーズなどをデータとして把握し、生産管理から新商品開発まで様々な取組みに挑戦できるだろう。

近年、アマゾンなどのEC サイトでは需給状況に応じたダイナミックプライシング7 と呼ばれる調整型の手法が広がりをみせてきた。これもAI が可能にした技術であり、電子棚札と連動すればリアルタイムの店舗販売も可能になる。

また国は、2018年6月に閣議決定された「統合イノベーション戦略」に基づく戦略推進会議を2019年3月に開き、AIを使いこなす人材を年間25万人育成する戦略案を示した。

AIやIoTが急速に広がる中、企業活動においてもその知識や技術が商品開発や事業運営そのものに必要不可欠になりつつあるため、学生のみならず社会人にもその教育をうながすとの内容で、2019年6月にまとめられる「統合イノベーション戦略」や、同年内の策定が予定されているAI 戦略にも反映されるものである。

これはまだ確定の内容ではないものの、学生にAI 教育を広く履修させることや、日本が国際的にAIの領域で優位性を確保しようとする姿勢がうかがえる内容となっている。

※4:スマートファクトリー:工場内のあらゆる機器や設備をインターネットに接続し、ITによって稼働状況や品質などの情報を管理する。
※5:Personalize(パーソナル化、パーソナライズ):個人が登録した情報や閲覧履歴などの情報を元に、AI が判断して関連度が高い情報を提供すること。
※6:スマートアグリ: ロボット技術やICT等の先端技術を活用し、超省力化や高品質生産等を可能にする新たな農業。
※7:ダイナミックプライシング:需給に応じて価格を変動させること。

これは限られた業界の話ではなく、すべての業界でこのAIやIoTに対応する新しいビジネス展開を進める最大の機会が目の前に訪れているといっても過言ではない。AIやIoTが社会実装され、産業や生活と密接に連携する社会がすでに始まっている。


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ブルーレポートの発行者

株式会社フォーバル ブルーレポート制作チーム

フォーバルは1980年に創業以来、一貫して中小企業と向かい合い、現在20,000社以上にサービスを提供している。フォーバル創業者の大久保秀夫は東京商工会議所副会頭、中小企業委員会委員長としても活動。今後フォーバルが誰よりも中小企業のことを知っている存在を目指し、良いことも悪いことも含め、現場で中小企業の生の声を集め、実態を把握。そのうえで関係各所へ提言することを目的に、プロジェクトを発足。

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