“ 働き方改革” というキーワードが聞かれるようになって、どのくらい経つでしょうか?遡ってみると、そのきっかけは、2015 年、大手広告代理店の新入社員の過労自殺だったように感じられます。
ニュースで垣間見られるその若々しくはつらつとした生前の姿に、多くの国民がショックを受け、大きな社会問題となりました。そしてそれは政府内でも様々な議論を呼び、安倍政権では一億総活躍社会に沿うかたちで、働き方改革関連法というアウトプットが出される運びとなりました。
2019 年4 月より順次施行される働き方改革関連法ですが、いくつもの側面があり、さらに中央省庁にはそれぞれの意図や目的があり、それらが複雑に絡み合うことで、「働き方改革」という体の良い型に収まっている節も感じられます。
多くの企業で問題となった、長時間労働による過労自殺を引き金に、労働者やその家族が長時間労働に対して発言する姿がマスコミでも頻繁に取り上げられ、国会でも野党の問題追及が活性化していきました。
さらに、少子高齢化による国内人口構造の変化による労働人口の減少への対策は避けられないとして、人手不足を補うため、子育て中の女性や定年退職後のシニア層、さらには外国人労働者などのターゲティングがなされました。
また、海外に比べて低い生産性を向上させるべく、「人手不足」×「生産性の低さ」という二重苦に直面している日本社会に対し、生産性向上への意識付けと、加速度アップのための掛け声としての側面も持ち合わせているように感じられます。
「働き方改革」の推進における、各省それぞれの思惑も見えてきました。総務省では、ICT 利活用(テレワークやモバイルワークなど)の促進、経済産業省では、「働き方改革」をきっかけとした「労働生産性の向上」、厚生労働省では、「労働災害の減少」などが、目下の目標値となっているようです。
さて、当社フォーバルの社是には、「社員が安心して力を発揮できる場づくりに努力する」という一文があります。社員は全員が「家族」だという文化を持ち、各々が安心して仕事ができる「場」づくりにみんなで取り組みましょう、という意味です。
社員の平均年齢が35 歳を超え、結婚適齢期の人や、子どもが生まれたばかりの子育て世代が増えてきました。年齢の高いベテラン社員には、親や家族の介護というパーソナルな問題に直面する人もいます。2019年度現在40期を迎えるフォーバルは、事業の継続と共にどの企業も直面するであろう、社員のワークライフバランスを無視できない、また組織として積極的に支援すべき段階にきています。
少し過去を遡り、2016年度のことですが、すべての社員が幸せを実感でき、「子育て世代」や「介護世代」が安心して働ける職場や仕組みづくりを推進するために、任意で手を挙げた社員の中から人事部が任命したメンバーによる、2つのプランが生まれました。
1:社員の介護離職を防止するため、介護世代が安心して働ける職場作りと仕組み作りに取り組むための「プラチナプラン」と、2「仕事」と「子育て」の両立支援をする「ダイヤモンドプラン」です。翻ってみると、この2つのプランプロジェク
トが、わが社の働き方改革への取り組みの、ひとつの出発点になったのではないかと考えます。
2016年度始め時点でのフォーバルの社員データを見てみると、社員数の伸びに伴って、女性社員の割合が増えています。また、男女共に20代の若手社員数の伸びと同時に、30代女性、介護予備群といわれる40代女性、50代男性の社員数が増えていることがわかります。
これらは、まさに「子育て世代」や「介護離職が懸念される世代」の共存が垣間見られるデータの一部ではありますが、それまではどちらかというと社員個人の領域であったパーソナルなライフステージの課題について、会社として支援をしていこう、全社員が、長く、安心して働くことのできる環境づくりをしていこう、というステップに、組織として介入していくきっかけとなりました。
こういった定量的データの分析と同時に、プロジェクトでは、全社員へのアンケート調査を行い、「介護」と「子育て」についてのリアルな声の発掘を開始します。プラチナプランにおいては、介護予備群といわれる40代の社員を中心に、「家族の介護について考えたことはあるが、準備や知識が不足している」こと、「介護と仕事の両立や、費用面、精神面での不安がある」傾向があることがわかりました。
ダイヤモンドプランにおいては、「子育て経験者は色々な問題、悩みを抱えており、子育て未経験者は、子育てをしながら仕事を継続するイメージを持つことができていない」ことがわかりました。さらに、任意参加による個別インタビューにて、当事者のリアルな声を収集し、具体的な課題や、それに伴う会社への要望のヒヤリングができました。
最終的に、今回のプロジェクトによる成果としては、「時間単位有給休暇」や「在宅勤務」の制度化があります。そしてこれらは、育児、介護を理由とした利用のみならず、全社員共通して利用、活用できる制度として現在は機能しています。当
事者社員に対する支援はもちろんのことですが、「当事者以外の社員が不公平感を感じるものでないこと」が、制度化する上での大前提とされました。
また、職場におけるいかなるハラスメントは許されない、として、全社員の意識改革や、風土づくりといったものに、根気強く取り組んでいかなければなりません。フォーバルの「働き方改革」は、まだ始まったばかりです。
このように、「働き方改革」へ取り組む…という意識よりも先に「社員が安心して力を発揮できる場づくり」について、全社員で考え、全社員で取り組もう、という社是の一節に即して、改めて考え抜いたプロジェクトとなりました。
これらの全社展開においてのPDCAも含めた経験値を足掛かりとして、中小企業経営者に対する実践的なコンサルティング支援としてもノウハウの公開、共有をしていきたいと考えています。
ブルーレポートの発行者
株式会社フォーバル ブルーレポート制作チーム
フォーバルは1980年に創業以来、一貫して中小企業と向かい合い、現在20,000社以上にサービスを提供している。フォーバル創業者の大久保秀夫は東京商工会議所副会頭、中小企業委員会委員長としても活動。今後フォーバルが誰よりも中小企業のことを知っている存在を目指し、良いことも悪いことも含め、現場で中小企業の生の声を集め、実態を把握。そのうえで関係各所へ提言することを目的に、プロジェクトを発足。