日本政府も2019年に入り、こうした特定の企業や団体がデータを囲い込むことのないよう対策を始めた。
その背景にはこれらのプラットフォーマーによる膨大な情報について、不当に収集し、扱っているのではないかとの懸念が国際社会から持たれており、その声が日本でも高まってきたためである。データ利活用の観点から、データを活用するビジネスにおいて自由な競争を阻害する要因になることへの懸念もある。
また市場そのものを囲い込み、一方的な条件を押し付ける事例が相次いだことから、正当な競争が排除されてしまうとの指摘もみられる。
さらには、過去の産業革命における工業化や石油のように、情報の活用が経済発展を牽引する存在になるとの期待感があり、日本でも積極的に情報を活用していこうとする意識があるためだと考えられる。
2016年12月に成立した「官民データ活用推進基本法」では、「官民データの適正かつ効果的な活用の推進」により「国民が安全で安心して暮らせる社会及び快適な生活環境の実現に寄与」することを目的とする法律である。端的に言えば、日本社会の発展や国際競争力を確保するためにデータ活用を進めていくべき、という内容になっている。
例えば、国や自治体が持つデータを積極的に民間に公開するとともに、企業間でもデータの共用などオープンデータ化を進めることで、データ活用を活性化させていこうとするものである。
ここで注目されるのが、日本が目指す情報活用社会への期待感である。以下はこの法律において定義されたキーワードの解説である。これらを活用することで、国民の生活環境を向上させようとしていることがわかる(※1)
キーワード
「AI(人工知能関連技術)」
人工的な方法による学習、推論、判断等の知的な機能の実現及び人工的な方法により実現した当該機能の活用に関する技術
「IoT(インターネット・オブ・シングス活用関連技術)」
インターネットに多様かつ多数の物が接続されて、それらの物から送信され、又はそれらの物に送信される大量の情報の活用に関する技術であって、当該技術の活用による付加価値の創出によって、事業者の経営の能率及び生産性の向上、新たな事業の創出並びに就業の機会の増大をもたらし、もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与するもの
「クラウド(クラウド・コンピューティング・サービス関連技術)」
インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて電子計算機(出入力装置を含む)を他人の情報処理の用に供するサービスに関する技術
日本はすでに人口減少社会を迎え、生産人口が縮小していく中で、こうした情報技術を活用しつつイノベーションを起こし、新しい市場や製品をつくり出し、かつ生産性向上への取組みを進めることが成長の鍵であると位置づけている。
政府は将来の経済成長に向けた投資として必要なものを検討するため、2016年から「未来投資会議」を設置した。これは官民が連携して国家の成長戦略、構造改革を推進するための会議で、内閣総理大臣を議長とする国家戦略の立案組織である。
※1:「官民データ活用推進基本法」(首相官邸)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20171010/kanmindetakihonhou.pdf
この会議を運営する日本経済再生本部は「未来投資戦略2018 -『Society5.0』『データ駆動型社会』への変革―」を作成し、2018年6月には閣議決定された。第4 次産業革命の技術を盛り込みながら「Society5.0」の実現に向けて突き進む、そのための投資を促す成長戦略を示す内容である。
2017年12月には、政府はさらに「新しい経済政策パッケージ(※2)」を閣議決定した。持続的な経済成長のためには少子高齢化への対応が必要であるとし、「生産性革命」と「人づくり革命」を進めて一億総活躍社会を実現していくとする内容である。
「生産性革命」ではAI、IoT、ロボットなどにより、単に効率性を高めるだけでなく、新しい、革新的なサービスを生み出すものでもあり、「生産性を劇的に押し上げるイノベーション」を実現していくとしている。また、「人づくり革命」では子育て・介護など現役世代の不安を解消すべく政策投資をしていくというものだ。
この中で、中小企業向けの施策としてまず掲げられたのが「中小企業・小規模事業者の投資促進と賃上げの環境の整備」である。具体的には以下のようなものが含まれている。
・ 生産性向上のための新しい設備投資を推し進めるための、固定資産税の負担減免のための措置、「ものづくり・商業・サービス補助金」等の予算措置を拡充・重点支援する
・ 賃上げや人的投資(新たなスキル獲得のための研修や社員の学び直し等)に取り組む中小企業に対して法人税軽減措置を講じる
・ 生産性向上に必要なIT・クラウド導入を強力に支援する。3年間で全中小企業・小規模事業者の約3割に当たる約100万社のITツール導入促進を目指す
・ 生産性向上国民運動推進協議会を推進し、中小企業の業種・業態に応じた生産性向上の取組みを促進する
・中小企業予算の執行の柔軟性・弾力性を高める方策について引き続き検討する
さらに、「事業承継の集中投資」では、後継者が未定とされる日本の中小企業向けに円滑な世代交代に向けた取組みを強化することや、事業承継税制などの抜本的な拡充などが提案されている。
その他、「中小企業等を支援する機関の機能強化」「地域中核企業等による地域経済の活性化」なども提案されている。
「新しい政策パッケージ」(内閣府)
https://www5.cao.go.jp/keizai1/package/20171208_package.pdf
ここで興味深いのが「Society5.0 の社会実装と破壊的イノベーションによる生産性革命」と示されている部分である。
第4次産業革命により進められている技術革新を、社会で具体的に展開させていくことを政策として取り組んでいこうとする内容で、政府のアグレッシブな姿勢がうかがえるものになっている。
例えば、「自動走行」分野では無人自動走行による移動サービスを2020 年に実現することを目指し、実証実験や必要な制度・インフラの整備を行うとしている。
「健康・医療・介護」分野では、関連するビッグデータを連結・分析するための「保険医療データプラットフォーム」の設計に着手すること、遠隔診療や自立支援介護の促進、介護のICT 化、ロボットセンサーの活用などが示されている。「金融・商取引」分野ではキャッシュレス化、Fintech の活用などが、人手不足が叫ばれる「建設」分野では3 次元データの活用やICT、AI、ロボット導入を強力に支援すること、同じく人手不足の「運輸」分野でも小型無人機(ドローン)の山間部での活用の検討が進められている。
こうした背景にあるのが「情報革命」とも位置付けられる、昨今の情報をめぐるビジネスの動きだ。すでにアメリカや中国の後塵を期している印象が強い日本は、人口減少や少子高齢化などの課題にも直面し、今後の経済成長への危機意識が政府のみならず経済界からも出ていることは間違いないだろう。
しかし一方で、日本にも強みがある。例えば中小企業も含めた日本企業の持つ高い技術力、ノーベル賞の常連になっている日本の研究開発領域でのレベルの高さ、教育水準の高さと人材の厚みなどである。これらの質の高い「経営資源」をいかに国際競争力が伴うレベルに引き上げていくことができるか。これが現在の日本で取り組むべき大きな課題であるとみられている。
ではこうした世界的な情報革命ともいえる環境変化に対し、我々が注目していかなければならないことは何なのだろうか。一言でいえば「情報」への感度を高めることと、それに対する具体的なアクションの実践である。
これまでの経済活動においては、いかに石油を確保し、モノを作り、大量消費社会に対して販売していくか、その市場を広げられるかが注目されてきた。しかし今後は「情報」の価値がさらに高く認識され、情報をいかに確保し、活用し、ビジネスを広げていくことができるかが経済成長の鍵といわれるようになっている。
無限に広がる情報の洪水から、データを収集・分析・活用できるまで運び、各ビジネスに応用していく。それが日本を支える中小企業の隅々まで広がれば、経済活動の底上げにつながり、日本の国際競争力も高まると考えらえている。これは一部の巨大プラットフォーマーや国内でも巨大IT 企業といわれる存在だけが関わるというものではない。
パソコンが普及し、今やどの企業でも不可欠な存在になっているように、あるいはスマートフォンがこの10年で生活に欠かせないデバイスになったように、日本のすべての企業にとって「情報」をいかに活用していくかで、そのビジネスの効率性が大きく変わるとまでいわれているのである。
ブルーレポートの発行者
株式会社フォーバル ブルーレポート制作チーム
フォーバルは1980年に創業以来、一貫して中小企業と向かい合い、現在20,000社以上にサービスを提供している。フォーバル創業者の大久保秀夫は東京商工会議所副会頭、中小企業委員会委員長としても活動。今後フォーバルが誰よりも中小企業のことを知っている存在を目指し、良いことも悪いことも含め、現場で中小企業の生の声を集め、実態を把握。そのうえで関係各所へ提言することを目的に、プロジェクトを発足。