社員教育の手法

続けて、社員教育に取り組んでいると回答した企業に対し、具体的にどのような手法で教育を行っているかを聞いた結果が図3−12のグラフである。

取組みとして最も多かったのが「OJT(日常業務を通じての教育)」の433 社(637 社中・68.0%)であり、選択肢の中でも群を抜いて高スコアとなった。

「OJT」とは「On the Job Training」の略で、職場で実務を通して仕事を身につけるために行われる教育手法のことである。多くの企業において、社員教育を行うときにまず頭に浮かぶことかもしれない。上司や先輩社員に同行し、仕事現場を見ながら感じ、考え、行動する一連のプロセスを習得する。これが仕事を覚える近道であることは間違いないが、一方で教える側の負担が大きくなることや、その内容やレベルに差が生まれてしまうことなどの弊害も想定しておかなければならないだろう。

この質問は複数回答が可能になっている。「OJT」のみと回答した企業が168社であったのに対し、その他の選択肢も含めて複数の手法を取り入れていると回答した企業は265 社であった。

「OJT」を選択した企業のうち、約6割は他の教育手法も取り入れながら教育を行っていることがわかる。

貴社では社員育成に向けて具体的にどんな取り組みをされていますか? (複数回答可)

ここで参考になる他調査結果をみることにする。

厚生労働省が毎年行っている「能力開発基本調査6」の平成29 年度結果によると、正社員の職業訓練として「OJT」と「OFF-JT7」のどちらを重視するかを問う質問があった。

それによると、「OJTを重視する」「OJTを重視するに近い」の合計が71.2%、「OFF-JTを重視する」「OFF-JTを重視するに近い」の合計21.6%を引き離していることがわかる。

社員教育を行う際に、OJTが重視されていることがこの調査結果からもわかる。

重視する教育訓練(正社員)

※6:「能力開発基本調査」(厚生労働省、平成29年度)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/104-29b.pdf

※7:「OFF-JT」とは「Off the Job Training」の略で、日常の実務ではない手法により行われる教育訓練のこと。自社や外部での研修や講演会参加などがこれに含まれる。

さらに、社員教育について詳細な調査を行っている労働政策研究・研修機構による調査(※8)では、「日常業務の中で、従業員に仕事を効果的に覚えてもらうために行っている取組み」を問う質問で、OJTとして実施されていることがわかる「とにかく実践させ、経験させる」(59.5%)、「仕事のやり方を実際に見せている」(55.2%)のような方法が有効であると考えられていることがわかる。

日常の業務のなかで、従業員に仕事を効果的に覚えてもらうために行っている取り 組み(複数回答)

※8:「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査結果(企業調査)」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)
https://www.jil.go.jp/institute/research/2017/documents/172.pdf

また、フォーバル調査におけるほかの選択肢の状況は、続けて多かったのが「自社での研修」の211社(同・33.1%)であり、さらに「自己啓発(独学・資格取得)」の205社(同・32.2%)、「外部委託での研修」の159社(同・25.0%)との結果であった。

自己啓発に関しては、次のような調査結果もある。

厚生労働省の「能力開発基本調査」によると、「受講料などの金銭的援助」が最も高いスコアとなっている。また情報提供、社内での勉強会への支援、就業時間の配慮、教育訓練休暇の付与など、その幅が広いことがわかる。

労働者の自己啓発に対する支援の内訳(複数回答)

一方、フォーバル調査において、「その他」を除いて最も少なかったのが「eラーニング」の75社(同・11.8%)であった。

「e ラーニング」の「e」はelectronic(電子の)が由来で、情報技術を用いて行う学習ツールのことである。時間や場所を自由に選ぶことが可能であり、時間効率を上げる手法として期待されているが、本調査の結果からは導入が進んでいるとはいえない状況にあることがわかった。

この調査結果からは、社員教育についてはOJT や研修など自社内で行うものを中心に行われる傾向がみられること、また自己啓発も奨励していることがうかがえる。

フォーバル調査では「自己啓発」と回答した企業が208社(637社中・32.2%)であったが、それに関連して以下のような調査結果も紹介したい。

既出の労働政策研究・研修機構の調査によると、「自己啓発に対する支援を行ったか」という質問に対し、「行った」と回答した企業は30.3%に及んでいる。フォーバル調査の結果と近い数字になっている。

また、この調査では企業の規模別分析も行っている。従業員が少なくなればなるほど「自己啓発」への支援を行う企業の割合は減っていくことがわかる。小規模の企業では「自己啓発」の支援を行うことが厳しい状況もうかがえる。

平成27年度に従業員の自己啓発に対する支援を行ったか

ブルーレポートの発行者

株式会社フォーバル ブルーレポート制作チーム

フォーバルは1980年に創業以来、一貫して中小企業と向かい合い、現在20,000社以上にサービスを提供している。フォーバル創業者の大久保秀夫は東京商工会議所副会頭、中小企業委員会委員長としても活動。今後フォーバルが誰よりも中小企業のことを知っている存在を目指し、良いことも悪いことも含め、現場で中小企業の生の声を集め、実態を把握。そのうえで関係各所へ提言することを目的に、プロジェクトを発足。

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